タイ人富裕層調査から考えるアジア富裕層との付き合い方

ミャンマー生まれ、バンコク在住。特許申請されているか否かをグローバルに調べるソフトウェアの開発、販売で財をなし、バンコクやシンガポールでレストランも経営しているタイ人Aさん(58歳)に話を聞いたので今回はそのインタビュー内容からアジア富裕層との付き合い方を考えてみたい。蛇足ではあるがレストランオーナーであることも理由のひとつなのか、Aさんの貯蔵ワインは4000本を超える。

「日本には年に何度か出張で行くが、宿泊は六本木のグランドハイアットと決めている。料金の割にとても地の利がいい場所にあるからだ。妻もつれていくことが多いが、彼女はひとりで京都や神戸に遊びに行くことが多い。その付添いができるツアーオペレーターが必要ないくらい日本は安全だ。そこが日本の一番いいところに映る。ビジネスに目を向けると日本のビジネスマンは平均能力がとても高い。海外で起業すれば成功するだろうなあと思う人にもよく会うものだ。しかし営業マンの雇用となると話がまったく違ってくる。こちらはかなりいい条件を出しているが、断られるかマイルストンが達成できないとすぐに辞めてしまうか、のどちらかが圧倒的に多い。一方、営業以外の分野では理にかなった話をするビジネスマンが多くいる。もちろん我々の国とは文化や歴史などの差もあるだろうが、日本のビジネスマンの自分への投資意識が希薄なのはボディーブローのように利いてくるんじゃないか、と予測している。理屈より先に、商品営業で基礎力を付けながら結果をだし、5年たてばカントリーマネジャーになれるのに、5年どころか1年ももたない連中が多いことは大変危惧している。特に男性に顕著だね」。

Aさんは当社の顧客として長くおつきあいさせていただいているが、バンコクのレストランマネジャーは7年間働いているドイツ人だし、シンガポールのマネジャーは12年もLeeさんの下で働いているシンガポール人だ。2人とも仕事は厳しいものの羨ましいほどの年棒とストックオプションを与えられている。Aさんの日本人ビジネスマンへの意見は現在の、あるいは将来の日本のビジネスへの警鐘として覚えておきたいところだ。タイに限らずアジア富裕層のほとんどはコングロマリット的なビジネスオーナーが多い。当然ながらマーケットを当初からアジア全域に考える傾向があるため、日本はそのビジネスがなんであれ重要なターゲットマーケットなのだ。しかしながらアジア富裕層が経営する会社のカントリーマネジャーになった日本人が少ないというのが一方の現実で、これでは最も日本のことを知っているはずの日本人の雇用がうまく進まず、結果外資参入による日本企業へのご利益が薄れていく可能性が強い。それはアジアマネーを取り込めないことを意味するという点では、完全にオポチュニティロスにつながっているし、将来的にもつながりかねないと言える。

他方で、日本人女性のある分野での可能性には大きな期待感を寄せる。「ナースと保育士。日本のナースは素晴らしい。間違いなく世界一のレベルにあると断言できる。しかしながらよくよく聞いてみると、労働環境がそれほどでもないというじゃないか。保育士もしかりだ。日本においては保育園に入れない子供がいて結果仕事ができない女性が多くいると聞く。しかもその保育士の労働環境もそれほどでもないようだね。私の母国ミャンマーはこれから病院や保育園がたくさんできる。優秀なナースや保育士がノドから手が出るほど欲しい。ましてや勤務経験のあるインターナショナルナース(病院勤務のナースではなく、仕事毎に契約し全世界の病院を顧客にするナースのこと)であれば引く手あまただろう。ミャンマーの医療はなんとかしなくてはならない。だからこの分野で協力してくれる企業を日本に求めているんだ」。

バンコク中心部のみならず、北部回廊(ラオス、カンボジア、タイ、ミャンマーをつなぐ高速道路の予定が着々と進んでいる)付近はタイの通貨であるバーツ経済圏になるとされている。数か国横串で通用するバーツ経済圏の拡大は、同地域のビジネスをよりフレンドリーなものにし、結果富裕層もどんどん増えていくことが予想される。そのような経済圏の中で必要とされているのが、保育士とナース、日本では人手不足で社会問題になっている産業分野だ。資本の論理で言えば、これらの産業に属する日本の労働リソースは、戦後企業がどんどん海外進出し産業空洞化が懸念されたことと同様、どんどん海外を目指すことになる。そして、より人材不足に陥る日本とは対照的に、アジア各国の労働リソースバランスは徐々に改善されていく。要するに本来は日本が優秀な海外の労働リソースを惹きつけねばならないまさにその同時期に、同じ問題意識を抱えたアジア富裕層資本がアジア各国に日本の優秀な労働リソースを引き抜いていく、という現象が遅かれ早かれ起きるということになる可能性が高い。

インタビューは短いものだったが、Leeさんの日本に対する意見は的を得ているものが多い。アジア富裕層をマーケティングしていくには、彼らがやっているビジネスのことを考え、どうすれば今の日本にある知恵やリソースで問題点を解決できるか、という視点が最も大切なことは明らかだ。「アジア富裕層はつかみにくい」ではなく、「アジア富裕層をつかむには、彼らのビジネスの悩みを解決することを考える」、と考えれば様々なブレイクスルーが見つかっていくことになるだろう。制度疲労が叫ばれる日本に外資を導入していくには、相手の弱点をよく知ること、これに尽きる。そしてほとんどのアジア富裕層にその弱点は存在するものだ。

 

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